ソロのチャリダーは共感しかしない、『走ル(羽田圭介)』を読んだ話

自転車の本

自転車が登場する小説の中でも、個人的に特に好きな作品の一つが、『走ル』という小説です。

自転車で旅をする小説ですが、よくある旅小説と違い

  • 旅先での人との出会い
  • 旅の明確な目的

といった要素がほとんどないという非常に癖の強い作品となります。

あらすじ

主人公は陸上部の高校生、自宅にあったビアンキのロードバイクを引っ張り出し、それに乗って部活の朝練に向かいます。

そこから、なんとなく授業をサボって北へ走り出していきます。

家族や恋人に嘘を付きながら、ただただ自転車に乗って北上を続ける、という物語。

感想

もう、本当にストーリーはこれだけなんですよね。

ただ、なんとなく自転車で北上をする。

学校はサボり、目的もなくただ走り続ける

行く先々で人との交流もほとんどなく、携帯電話でのメールで恋人や友人、家族とのやり取りをするだけ、新たなコミュニケーションがあるわけでもない。

本の中身のほとんどが、主人公である「ぼく」が自転車に乗りながら考えたこと、感じたことの記述に費やされています。

アマゾンレビューとか見ても賛否両論な物語となっていますが、なんとも奇妙に自分にとっては魅力的な物語なんです。

その魅力の一つが、ただなんとなく感じた欲求に従って意味もないことをしていることへの共感です。

自分は学生時代、原付きで大学に通っていましたが、通学時にふと「この道をひたすら真っ直ぐ行ったらどこに着くんだろう」と考え授業をサボったことがあります。

なんの意味もない半日の旅でしたが、その道の中で「このお店ってこんなところにあったのか」とか「こんなところに桜並木があったのか」といった発見に心躍ったことを覚えています。

だからこそ、主人公が自転車に乗って北へ向かう姿に対する懐かしさや今はもうできないことへの羨ましさを感じるのだと思います。

またもう一つの魅力が、ただひたすら自転車を漕ぐときに考えること、感じることが非常に丁寧に記述されていて、そこに対して共感の気持ちが生まれることです。

ロードバイクをはじめとして、自転車を趣味にする方でも「誰かと競うこと、一緒に出かけること」を重視する人もいれば、「ただ自分ひとりで黙々と走ること」に楽しみを見出す人もいると思います。

一人で走ることに魅力を感じるような人にとって、主人公が北上中に考えること、感じることはなんとなく共感できることが多いかと思います。

一人で走っていると、こんなこと考えるよなぁ、こんなことあるよなぁ、といったような気持ちになれるかと思います。

そして、自分も「走ル」気持ちになってくるかと思います。

主人公に大きなドラマが起きるでもなく、ロマンチックな出会いもありません。

ただ、黙々と自転車に乗る機会がある人は、どこかしら共感することがあるかと思います。

生き生きと走り続ける主人公の姿、それこそがこの物語の魅力だと思いますので、ソロのチャリダーの方はぜひ一度読んでみてほしいです。

おすすめです。

こちらkindleでも読めます。

他にもある自転車小説についてはこちら

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